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In the name of… ~沈底魚 [book]


この本も店頭で初めて見たときから気になっていたのですが、なんとなく買う機会を
逃して図書館待ちに回した作品です。

沈底魚

沈底魚

  • 作者: 曽根 圭介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2007/08/10
  • メディア: 単行本

最初は登場人物が警察関係者ということから「クライムノベル」かと思っていたのですが、
もちょっと正確に言うと「スパイ小説」でした ( ̄▽ ̄;

 


物語りは公安刑事と某国(まああの辺の国)のスパイの暴き合いと騙し合い、
それに公安内部のダブルスパイが絡み、漏れた情報は本当に漏れた情報なのか?
意図的に流されたものでは?もしくはその情報そのものの確度は?という
情報戦が交錯し展開していきます。

ですので自然と内容は二転、三転(つかそれ以上)し、だんだん何が信じるに足るものか
何が本当で何が虚言なのか、主人公ともども読者もそんな疑心暗鬼の渦に巻き込まれて
いくのです。
言葉を選ばないで言えば「ややこしい」です。
ですのでヘタに途中で読むのを中断させずに一気に読破される方がよろしいかと思います。

キャラクターやそれらが所属する組織、立場がどういう関係になっているかという
いわば舞台装置をきちんと読者に伝えなければこの作品のギミックは機能しないのですが、
その辺りは丁寧に整理されているし、それぞれの関係を示すエピソードなども必要十分
に取り入れられているので、読んでいてわかりにくいということはありませんでした。
登場人物の個性もオーバーになり過ぎない程度でしっかりと描写されていましたし。


「それはよかった。接続料を浮かすために不正アクセスをしていた、たんなるケチ臭い老人と思われるのは、抵抗があるからね」

これは物語り中盤の山でのキーキャラクターの言葉なのですが、ケレン味たっぷりです。
実はこのケレン味は他のキャラクターのバランス感覚としては少し外れたもので
違和感を感じたのですが、その感覚はワタシ的には割りと正解でした。


「それならまずうちの店で、皿洗いだ」

そしてこちらはこの物語りで一番の食わせ者のセリフです。
そうです、この作品で本当に力を持っている人は目立たないのです。

話の筋書きについては本当はすごい国家の危機的な大変な事件のはずなんですが、
出てくる人たちが集団ではなくあくまで個々での対応に終始して、なんらかの集団や
団体のようなもの(※それこそ国家そのものとか)が動く様子が全然無いままエンドマークを迎えて
しまうので、その辺が少し緊迫感が感じられなかった要因なのかなぁと思います。

ですが登場人物の駆け引きや伏線の張り方、回収の手腕はしっかりしているので、
きちんとそれぞれには理由が与えられて幕を下ろします。
力技で無理矢理なことはないので読後感はすっきりとしたものです。

ひとつ気になったのは女性キャラクターの描写とか扱いです。
別に男尊女卑というわけではないのですが、正直言ってあまり上手とは思えません。
話の内容が漢(オトコ)くさいものだという部分を差っ引いても如何なものかと。

例えば冒頭で出てくる主人公の昔馴染みの女のひと。
この事件に知らぬ間に巻き込まれて死んでしまうのですが、それに対する主人公の
リアクションがすっごい薄いのです。
まあベタな色恋沙汰を安易に持ち込まなかったというのは決して間違ったことでは
無いと思うのですが、それにしてもあっさりだったなーというのが正直なところです。
最初はそういうつもりで立てたキャラクターなんだけど、思ったよりその手の
エピソードが主幹に絡まなかったのでやめたところ、ああいった中途半端な
処理になっちゃったのかなーというのがワタシの印象です。
つかこの作者さん、あまり魅力的な女性キャラクターや女性が絡んだエピソードを
書くのが上手でないのかも知れません。
この辺は次回作以降のものを読む機会があったら注目したいと思います。

さてこの作品を読みとくのにワタシが一番重要だなと思ったのが

『誰のために、何のために』

ということです。
主人公が属している組織「公安」というものは当然ながら“国家のため”
にのみ存在しているものです。
ですがそれは必ずしも“国民のため、人のため”とイコールではありません。
民主主義だからこそ、多数決で意思決定をする社会だからこそ、その場その場での
判断は相互に矛盾を持つことになり、いつの間にか歪な形となってしまうのかも
知れません。


 


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