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神さまのいた森~誘う森 [book]


これも書店で見かけたときにもっそい気になったのですが、なんとな~く
図書館貸し出しにまわしちゃった本です。
でも他のと同様に読み終わって思うのはものすごくツボだったので、迷わず
買っておけばよかったと。。。f^_^;)

誘う森 (ミステリ・フロンティア (45))

誘う森 (ミステリ・フロンティア (45))

  • 作者: 吉永 南央
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2008/06
  • メディア: 単行本

ちなみに“誘う”“いざなう”と読みます。
ワタシ、読み終えるまで“さそう”って読んでました ( ̄▽ ̄;

 


「死んでなんかおりません。八時です。ちょうど、<オカザキ>の看板が消えましたからね」

主人公は一年前に妻を亡くした一人の男性。
他に身寄りの無い彼はそのまま妻と暮らした街で暮らしています。
癒されない心のまま過ごす毎日。
そんなある日、昔警官だった一人の老人が漏らす一言によって自殺した妻の
ことをより深く知りたいと思うようになります。


「そうだ。一番かわいそうなのは香映ちゃんだ。自分も傷を負って血まみれの状態で、失血死していった母親を看取った。冬の暗い森で、たったひとりで。まだ十二歳だったんだ」

その過程において次々と明らかになる妻の持っていた暗い過去。
それは壮絶で凄惨なものであり、また彼女の数奇な出自を示していきます。


「かわいい顔して、誰と結婚したいと思っていたんだ」

そんな中でも幸せと安らぎを求め続けた妻。
彼女が求めたものは本当に自分にあったものなのか。
自分は妻に本当に愛されていたのか。
過去を知るということには知らなくても済んでいたことも含まれます。
でも彼女がいない今はそうするしかないのです。残酷で過酷なことです。


「お墓には主人とふたりだけで眠りたい、って奥さん言ってた。あれは、隣の食堂をやってた林さんのお葬式だったわ。子供はどうするのと訊いたら、入れてあげない、って笑ってた」

一人だけいればいい。
掛け値なしでただ自分を思ってくれる人が一人だけいればいい。
それは血の繋がりなどではなく、ただ思うこと。思われること。
彼女の切なる願いはかなう道があったのでしょうか?

この作品を読んでいて途中から頭に思い浮かんだのは“横溝正史的”ということです。
“金田一耕介的”でもいいでしょうか。
ワタシ、いわゆる角川映画でしか「金田一耕介シリーズ」を知らないのですが、
この作品の場景は“市川昆”監督が演出して見せたあの風景を思い起こさせます。

作品に流れるものは“血族”、“古からの習わし”そして“禁忌”です。
インモラルとまでいうと言い過ぎかも知れませんが、ちょっとその手のタブーっぽい
ことも重要なキーアイテムになっています。
それ自体はある意味寸止めっぽいのですが、特に妻の視点から見た光景には
ある種、禁断の香りが漂います。
でもそれでいて清廉であるがゆえに最後の落としどころもすっきりしたものに
なっていますし、読んでいて不快ということはありませんでした。

日本の神さまは八百万の神です。
神さまは人のために都合良く何かをしてくれる存在では無かったのです。
それゆえに敬い、奉り、そして恐るるべき存在であったのです。
もしからしたらそのことは自分達の作ったルールにいつしか神が宿り、それに
作った側が翻弄されていくという愚かしいことに見えるのかも知れません。

祝福を与えてくれるのも神であれば呪うのも神。
現代日本の価値観はその宗教や哲学も含めて多様化していますが、独自にあった
一番古いものはこのようなアミニズムによるものであったのだということを
改めて思った作品でした。

「このお話は日本人以外には理解できないこと、たくさんあるんだろうなぁ。。。」

と思いましたが、同時に日本人であれば誰でも無条件に理解できてしまうところも
たくさんあると思います。
最近ではちょっと見ないタイプのおどろおどろしい、でもロジックと伏線はしっかりした
とても読み応えのある一冊でした。


 


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