SSブログ

映画も楽しみです!~犯人に告ぐ [book]


ワタシ、映画化作品については

『映画を観る→原作本を読む』

というパターンが多い人です。
映画化になると原作の詳細部分ってカットされたり、キャラクターを整理(主に減らす)したりするじゃないですか。
もちろん大抵の場合、本の方が情報量が多いし、ビジュアルではワンカットで示せる部分を文字で起こすためにはビジュアルでは必要のない描写を追加しなければならないからなのですが。

ですのでストーリーの大まかなラインを劇場で楽しんで、それが気に入ったなら詳細の部分を知りたくなり、原作に手を出すということですね。
そんなわけで例外はありますが大抵の場合、映画がそれほどでもないときや、とりあえず満足しちゃったときには原作に手を出したりしません。
ちなみにパパンはワタシとは逆なのですが Σ( ̄▽ ̄;

たまたま昔、読んでいた本が映画化されて観にいくということはありましたが、それはさておき、今回この作品については意識的に先に原作を読んでおいて、映画を観てみようと思いました。
というわけで先日いろいろと話題になった『クローズド・ノート』の原作者でもある
“雫井脩介”さんの

犯人に告ぐ 上 (1) (双葉文庫 し 29-1)

犯人に告ぐ 上 (1) (双葉文庫 し 29-1)

  • 作者: 雫井 脩介
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2007/09/13
  • メディア: 文庫
犯人に告ぐ 下 (2) (双葉文庫 し 29-2)

犯人に告ぐ 下 (2) (双葉文庫 し 29-2)

  • 作者: 雫井 脩介
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2007/09/13
  • メディア: 文庫


を読みました。

ワタシ、この作品は映画館で予告編を観ていて気になり、ソレにあわせて原作本が文庫化されたので購入しました。
ジャンルが刑事モノということもありますし、予告編で見たトヨエツさんの刑事っぷりがエラくカッコよかったということで興味をひかれたのです f^_^;)
ということで、主人公の「巻島刑事」役はトヨエツさんのイメージでさくさく読み進めました。


この物語りはまず主人公である巻島刑事のキャラ立てのために、かなりのページを割いてひとつの事件を扱います。
この事件は身代金目的の幼児誘拐事件なのですが、ここで犯人を取り逃がしてしまったことから巻島のキャリアや心身に大きなダメージが残るのです。


「じゃあ何だ。私どもが悪うございましたとでも言えば、世間に評価されるとでもいうのか?」

警察って我々市民の目から見て、明らかに悪いと思うような事態においても、事件捜査の失態については謝罪を行いませんよね。
もちろん不祥事については警察内部のことですから表沙汰になれば謝罪を行うこともありますが、事件捜査に関してはあまり聞いたことがありません。

ワタシも当事者(この場合は犯罪被害者)になれば、警察に対して恨みつらみのひとつも覚えるようになるかも知れませんが、一歩下がって俯瞰で見てみると、警察という組織はわれわれ一般の人ではできない権限を持っていると同時に、われわれではあたり前にできることに制限がついていることも見落としてはなりません。
警察という組織における行動については、我々の常識では理解できない、もしくは判断できない部分が多々あると思うのです。

ここで安易な結論を出すことは控えますが、警察が謝罪しようがしまいが、
事件そのものがそれによって進展を見せることがない
というのは少なくとも明らかです。
この時点で警察が取りうるのは、その先々まで見据えたmore betterな選択肢のみで、その時点での状況が好転することがない、撤退戦を戦っているようなものなのですね。
そしてその撤退戦の殿として巻島は矢面に立たされ、尻尾切りにあうのです。


「健児はどうした?」

この部分はぜひ原作を読んで確認してもらいたいのですが、巻島という刑事がこの事件によって受けたダメージの深刻さが窺い知れます。ちょっとぞっとした場面でもあります。


「あそこまでいかなきゃ分からんのかなとは思いますけどね」

その後、身も心もぼろぼろになり左遷された巻島の立ち直りを促したのは、一人の刑事が会わせた元犯罪者でした。その姿に巻島はこれまで感じていた犯罪者への思いを修正します。

ここで目覚しい活躍を示した巻島は、ある未解決の連続殺人事件の陣頭指揮を取らされるため、古巣に呼び戻されます。
そこで聞かされたその捜査方法というのはメディアを使った大胆な手法でした。

以前とは異なる空気をたたえて戻ってきた巻島は、その命令を受け、犯人との精神戦に突入して行きます。
その舞台となるあるニュース番組にも魑魅魍魎は潜んでいて、
お互いの利害関係のみで結ばれたメディアという化けもの
との綱引きをしながらも巻島は犯人に挑むのです。


「どうでしょう……案外、自分の人生のことを他人のせいにできないことくらい、みんな分かってるんじゃないですかな。いろんな意見がある社会で生きているわけでね、みんな自分で落としどころを見つけてやっているわけですよ」

そこには安易な共闘姿勢などはなく、テレビ局はあくまで自社番組の視聴率のため、警察側は犯人を検挙するための事以外はお互いを騙すことすら必要になります。
ですがこれはきわめてリアルな話しで、下手な浪花節に転がって、テレビ局との馴れ合いにならないところがこの小説を骨太なものにしていると思います。


「だいたい、息子に言わせると、映像の世界じゃ捏造と演出は同義語らしいですよ」

この捜査は「劇場型捜査」と銘打たれています。
演出はどこまで許されるのか。
目にするものはどこまでリアルなのか。
現代社会におけるリアルとは何をさすのか。

ニュースすらエンタテインメント化している昨今、それはどんどんぼやけていっている様に思います。


「痛そうじゃないから痛くないんだろうと思ったら大間違いだ……それは単にその人が我慢してるだけですからな」

また警察内部においても利害から方針は一致しません。
この辺りは「踊る大走査線」シリーズにより、一般的にも既知のこととなりました。
(※そういう意味でも「踊る~」シリーズの功績ってすごいなぁ)
巻島は獅子身中の虫の対処にも追われます。

ラストはそれぞれのエピソードにきちんと終わりを与えて幕を下ろします。
ですので、読後感はよろしいものでした。
特に冒頭での事件を一枚かませることにより、全編における巻島の行動原理や振る舞いに強い説得力を与えていますので、どれだけ無茶っぽいことをしても無理を感じません。
これが無いままだとちょっとスーパーマン過ぎちゃって、ご都合主義の話しになっちゃうんですよね。

ただこのエピソードにかなりのページを割いたわけですから、巻島のキャラ立て以外にももう少し意味付けを持たせられないのかなぁとは思いました。ですがこちらのエピにもそれなりの決着が与えられていてとりあえずは良しといったところです。

メインの連続児童殺人事件については、テレビメディアを利用するという大胆なスタイルに対して、その手ごたえが少し物足りなく感じるのですが、実際にはこれくらいのものかも知れません。
また犯人からのメッセージが妙に“中二病的”というか、キャラクタリスティックなのは滑稽さすら感じますが、ここは読み取る方によって意見が分かれるところでしょう。
ワタシ個人としては犯人の素性からすると、もうちょっとアイディアが欲しかったかなぁと f^_^;)

警察内部におけるパワーゲームについては、その動機が少し軽すぎるし、舞台設定も都合が良すぎる感じがします。また相手役にしても巻島とは格が違いすぎるので、あまり危機感を感じませんでした。
ですが『バッドマン』と名乗る連続殺人犯との接触がとても少ないため、こちらの方が目に付いてしまって、結果的に話しの軸がちょいとブレてしまっているように思います。
個人的にはこの辺りをばっさりカットした方が、映画としては主題を示しやすいと思うのですが、さてその辺はどうなっているのか楽しみです。

連続殺人事件の犯人逮捕としてはドラマティックな演出はされていません。
でもリアルとは得てしてそのようなものかなぁと。これは宮部みゆきさんの「楽園」を読んだときにも感じたことなのでワタシには不満ありません。
ただちょっと偶然が過ぎるかもと人によっては感じるでしょうね。
つか正直、ワタシも

「ここまで計画しておいて、解決の糸口は偶然かいっ!」

と思いましたけど、そもそもこの偶然を引き出すための揺さぶりがこの捜査方法の目的でもあったわけですから。

ですので、この作品における捜査手法というのは現実的ではありません。
おそらく、今の日本では取られることが無いとてもフィクション性の高いものです。
(※アメリカなどでは実例があるようですけど)

ワタシはここでエンドマークでも十分かと思いましたが、最後に少しエンタメ性の高いエピソードが用意されます。
リアルを追求する意味としてはこちらも不自然に過ぎると思うのですが、フィクションとしてはいい幕引きになっていると思います。

この作品の舞台が横浜、新宿、川崎と、ワタシにはそこそこ馴染みのある土地柄、脳内での映像化は容易にできました。
ワタシがコレを2時間の映画にするならば、どの部分をカットして、どのように物語りを再構築するか考えるのも楽しいです。
そんな感じで今はワタシ脳内でトヨエツさんが新宿の街中や、横浜を走っています。
今ワタシの中にあるこの映像と、劇場で目にするものがどのように異なるのかが楽しみです☆

というわけで近日中に劇場に足を運びたいと思います。


nice!(3)  コメント(6)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 3

コメント 6

こんにちは^^
本屋さん入り口で山積みになっている本ですね~
気になっていました!!
帯でトヨエツ主演で映画化されるのも見ていましたけど
「どうなのかな~」と眉唾な感覚でした^^;
記事を読ませて頂いて甲乙つけがたい印象を受けましたが
骨太な作品のようで過去の出来事からのリベンジ的な要素と
犯罪と報道を絡ませているあたりが私好みです^^
早速、読んでみたいと思いました☆ありがとです~!
by (2007-11-17 13:45) 

和-nagomi

Bettyさん、こんばんは (^▽^)ノシ
すっごい辛口で粗探しすれば、エピソードのバランスとか一部キャラクターの魅力がちょっと欠けるとかあるのですが、物語りの背骨がしっかりしていますし、主役の巻島刑事がとても魅力的なのでぐいぐい読めると思います!
読後感もよろしいし、刑事モノがお好きな方ならばきちんと楽しめるんじゃないでしょうか?
ワタシは雫井さんの作品を読むのはコレが初めてなのですが、とりあえず
「クローズド・ノート」については近い内に読んでみたくなりました☆
そうそう、トヨエツさんの映画も早く観にいきたいです(^^)
by 和-nagomi (2007-11-17 18:05) 

ab-ovo

WOW WOWで先行して放送をしたのを観ましたっがオチはともかく良く出来た作品だとおもいました。
by ab-ovo (2007-11-18 11:14) 

和-nagomi

ab-ovoさん、こんばんは☆
WOWOWではすでに放送されていたのですか!
オチは原作と同じなのか、確かめるのも楽しみです。
by 和-nagomi (2007-11-18 21:40) 

joker

和-nagomiさん、こんばんは。

物語の随所に印象に残る言葉があり
ここに記されている言葉には、私も少なからず
印象が残っています。
どの部分に関しても巻島のキャラに陰影を与えている
なと感じます。映像になった時にどのくらい原作の
印象を巻島に投影出来るかという部分に興味があります。
ただ、私のホームタウンでは放映が無いのが残念です。
映画の感想を期待しております。
by joker (2007-11-23 22:01) 

和-nagomi

jokerさん、こんにちは☆
映画は上手くあの世界を表現していて、ワタシのイメージとかなり
近いものに仕上がっていました!
原作付きのものとしては良作だと思いますよ (≧▽≦)b
そもそも読み始めの時点で、巻島刑事のビジュアルイメージを
トヨエツさんで作っていたので、違和感無しなのは当然なのですが、
特にテレビ出演のときの空気感はとても良い演出がされていました。
ミニシアター系公開ですので、なかなか観にいくのが難しい方も
いらっしゃるのですね。
でもDVDやテレビ放送を待って観ても面白いと思います!
by 和-nagomi (2007-11-25 11:01) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。